世田谷区発達障害相談・療育センター「げんき」主催の
講演会、「発達障害について考えよう」に参加しました。
ご登壇くださったのは昭和医科大学特任教授・精神科医の
岩波 明 先生
<プロフィール>
・東京大学医学部 卒
・東京大学医学部附属病院精神科
・東京都立松沢病院
・ヴュルツブルク大学精神科
・昭和大学医学部精神医学講座教授 2012~
・昭和大学附属烏山病院・病院長 2015~
・日本成人期発達障害臨床医学会 立上げ 2020~
同学会 理事兼事務局
・昭和医科大学特任教授 2024~
<講演内容>
Ⅰ.発達障害とは
Ⅱ.ASDとADHD
Ⅲ.ASDについて
Ⅳ.ADHDについて
Ⅴ.発達障害と創造性
<講演のポイント>
以下に講演の内容をまとめてみました。
- ①発達障害=ASD(従来の広汎性発達障害)ではない
- ②ASDとADHDは併存するのか?
- ③ASDとADHDとの誤診
- ④ADHDの併存症
- ⑤ADHDの併存症状1
- ⑥ADHDの併存症状2
- ⑦よくある誤診(ASDとADHD)
- ⑧よくある誤診(ADHDと双極性障害)
- ⑨よくある誤診(ADHDとBPD)
- ⑩マインド・ワンダリングな人たち
①発達障害=ASD(従来の広汎性発達障害)ではない
発達障害=ASDという概念が蔓延しているが、
そうではなく、発達障害は以下疾患等の総称である。
・知的能力障害群
・コミュニケーション障害
・自閉症スペクトラム障害(ASD)
・注意欠如・多動性障害(ADHD)
・限局性学習障害(LD)
・運動障害群
・その他
②ASDとADHDは併存するのか?
診断基準上、ASDとADHDは一見すると異なっているが、
症状の重なりが大きく、併存するケースも多くあるため、
最近は併記可能である。
●ASDの特徴 ・対人関係・社会性の障害
・常同的、強迫的行動
・(言語発達の遅れ)
●ADHDの特徴 ・多動
・衝動性
・不注意
③ASDとADHDとの誤診
発達障害の診断は誤診が多く、
中でも、ADHDをASDと診断されている例が多い。
この傾向は、精神科医が、
発達障害と言えば、
ADHDよりもASDに関心があったため、
診断にバイアスがかかり、
実地臨床において、
ASDの過剰診断が目立つとのこと・・・
実際、外来受診者は ADHD>ASD である。
●ASDの有病率 約1%
●ADHDの有病率 4ー8%(小児)
(Sandra Kooij) 3ー5%(成人)
④ADHDの併存症
ADHDの併存症としての
うつ状態、不安症状は一過性であり、
ADHDの特性に基づく二次的な障害であるケースが多い。
そのため、それらが二次的障害として併発しているのか、
主症状なのかによって、
治療方針や投薬内容が変わってくるため、
これらの症状に関しては慎重に診断する必要があるが、
併存なのか、一過性なのかについての判断は
難しいところである。
二次的症状である場合には、
ADHDに対する治療が必要である
⑤ADHDの併存症状1
衝動性やセーブが効かない特性のため、
以下の問題行動や依存症に陥りやすい。
・攻撃的な行動
・自殺企図、自殺行為(リストカット・OD)
・買い物依存。金銭管理の問題
・過食
・アルコール。薬物依存
・ギャンブル依存、インターネット依存
⑦よくある誤診(ASDとADHD)
対人関係の障害から、
ASDと診断されることがあるが、
ADHDにおいても対人関係の障害が認められるため、
正しいの診断のためには
小児期における情報が重要である。
例えば、
成人期の孤立や対人関係のトラブルを抱える患者さんの話をよく聞くと、
小学校の頃は友だちも多く、お喋り好きであったが、
思春期の頃から、
自制の効かないトークや一方的なトーク、
思ったことを直ぐに口にする行為によって、
友人が離れていったり、
周囲から疎まれたりするようになり、
孤立化したのであって、
ASDの孤立化とは違うケースが少なくない。
ASDは空気が読めないが、
ADHDは読めないのではなく、読もうとしない。
⑧よくある誤診(ADHDと双極性障害)
ADHDの情緒のアップダウン(不安定さ)から、
双極性障害との誤診が見られる。
・うつ病、うつ状態ではなく、
焦燥感、集中力の低下によって、
ボルテージが下がっている状態
・一見、そう状態に見えるが、
多弁・多動・衝動的な特性から
ハイテンションになっている
⑩マインド・ワンダリングな人たち
発達障害の特性は創造性などポジティブな側面をもっており、
経産省では「Neurodiversity」として、
様々な特性の違いを多様性と捉えて相互に尊重し、
それを社会に活かしていこうという方針を掲げているそうです。
(講演会資料P76より転写)
マインド・ワンダリングとは主に心理学の分野で研究されている概念で、
現在行っている課題や外的な環境の出来事から注意がそれて、
自発的な思考を行う現象。
この現象は一見したところ、
無目的でまとまらない行動とみなされることが多いが、
一方でこれまでの研究から、
思考の流暢性(発想の数の多さ)、
思考の柔軟性(発想の多様さや柔軟さ)、
思考の独自性(発想の非凡さや稀さ)などの
「創造性」との関連が大きいことが示されている。
<ADHDの特性があったと思える人>
●モーツァルト
●大村益次郎(明治維新の立役者の1人)
●葛飾北斎
<NDDの著名人>
●イーロン・マスク氏
●オードリー・タン氏
<フィクションの中のNDD>
●NHKドラマ「アストリッドとラファエル」
www.nhk.jp
●「ミステリと言う勿れ」
not-mystery-movie.jp
なかなか面白いドラマですので、
ご興味ある方は、是非、ご覧になってみてくださいね♡
================
<参考>
世界保健機関(WHO)の
疾病及び関連保健問題の国際統計分類
ICD=International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems
↓ ↓ ↓
https://icd.who.int/browse/2025-01/mms/en#334423054
●発達障害(神経発達障害)は
「06.精神障害・行動障害・神経発達障害」に収載。
●チック障害、およびトゥレット症候群は
第一収載先(primary parent)として、
08神経系の疾患(Diseases of the nervous system)の
運動障害(Movement disorders) にカテゴライズされていますが、
二義的な収載先として、
「06.精神障害・行動障害・神経発達障害」の
「神経発達障害」と「強迫症または関連症群 」に収載されています。